日時・会場 出演者
3月16日(土)
吉祥寺・赤いカラス
アキコ・グレース(pf)
俵山 昌之(b)、小島 勉(ds)




アキコ・グレース 1st. CD "From New York"


アキコ・グレースさんは、スポーツ誌の芸能欄(例えば、こちらとか、あちらとか)でも取り上げられる等、今、大変に話題になっているジャズ・ピアニスト。  勿論、ジャズ専門誌などでも、評論家先生の皆さんが大絶賛。  まあ、日本ジャズ界が大西順子さんを失ってから2年経ち、やっと待望の【タレント】が出てきた・・・といったところでしょうか?  僕としては、こういう、音楽の本質とは別次元の【ジャズ・メジャー(資本)】の動向には興味がないし、その上、【グレース】なるステージ名(芸名)なんて、始まる前から終わっているよなあ・・・と思ってましたけど(笑)。 しかし、実際の演奏を聴かずして、端から馬鹿にするのもイカンですよね。  で、この日は、当初、ライブに行くつもりは無かったのですが、まあ、色々とありまして(?)、結局、『赤いカラス』に足を向けたのでした。 

さて、店に到着すると既に演奏が開始されていました。  メンバーは、アキコ・グレースさんのピアノを中心に、俵山昌之さん(b)、小島勉さん(ds)。  丁度、アキコさんのピアノ・ソロの所で、曲は『ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン』。  流石に、大注目の女流(才色兼備?)ピアニストのライブ、ということで、店内は【30代独身】と思しき男性(かく言う自分も、だが・・・)を中心に盛況です。 客が座っていない席の殆どにも、コースターがセットされており、予約が入れられていることが分かります。  ところで、アキコさんのアドリブ・ソロをチョイ聴きした第一印象は・・・『普通のジャズ・ピアニストじゃない?』というものでした。  別に雰囲気があるわけでもないし、オーラを発しているわけでもなく、打鍵に込められた『訴求』もないし、う〜ん・・・。  

そうこうしているうちに、ベース・ソロとなります。  俵山さんは、色々なバンドで活躍中の、東京のライブ・シーンでは売れっ子のべーシストですが、どういうわけか、今まで.僕は殆ど縁がなく、数年前に五十嵐一生バンドと池田篤トリオでエレベを弾いていたのを聴かせて貰ったことしかありません。  アコースティック・ベースを弾かれているのを聴かせて貰うのは当夜が初めて。  で、そのベース・ソロなんですが、ああ、この人、あんまりスタンダードに強くないみたいだなあ、あんまり知らないのかなあ、と思わせるものがありました。  簡単に言うと【垂れ流し】。  いやはや、なんとも、こりゃ参ったね・・・と思っていると、どうもアキコ・グレースさんも同様に感じたらしく(?)、シンプルなコンプを止めて、突然、『ちょっと、ちょっと、面白くないのよね、そういうベース・ソロって、止めてよ、ワタシのトリオなんだからさ』という声が聞こえてきそうな(笑)、鋭い切り込みを入れ始めたんですねえ。  うぉ〜っ、アキコ・グレース、いいぞ、いいぞ、やれやれ! 行け行け! なんて言いましょうか、桃屋のビンの蓋が固くて取れない・・・と言ってる男から、『ちょっと私に貸しなさい、それ。 ったく、役に立たないんだからさ』と無理矢理そのビンを奪い取る、そんな強引さですね、こりゃ。  なるほど、やっぱり、この人、凄いわ・・・。

ちょっとした事なんですが、このシーンから、アキコ・グレースというピアニストは、【私の音楽】を冷徹で強かな視線で見つめている人だということが分かります。  ここでやっと、僕が抱いていた先入観は消え去って、アンテナが『アラを探してやろうモード』から、『素晴らしさを見つけてやろうモード』に。  2曲目は、アキコさんが書いたばかりという、トリッキーなリズムのオリジナル曲が披露されます。  途中、熱演でホットになったようで、アキコさん、着ていたジャケットをお脱ぎになり(ヨッ、待ってました?・・・下品で失礼)、すると、ススッと後方から、旦那だかボーヤだかジャーマネだか知りませんが、男性が近寄り、手馴れた調子でアキコ嬢からジャケットを受け取り、また、ススッと後ろへ・・・。  うぉ〜っ、これがメジャー・アーチストというものか? 流石だあ! よくよく見ると、その男性以外に、もう一人女性スタッフ(アシスタント?)が控え席に待機しており、ん〜っ、なんと御付が2名体制!  こいつは、凄いぞ〜!  オオモノじゃ〜ん! (因みに、レコード会社の方だったようですね・・・、休日出勤?お疲れ様でした・・・笑)

さあ、MCタイム。  これが又見事で、東京モーターショーのコンパニオンのお姉ちゃんにも負けない滑舌、そして堂々とした態度。 グレース(優雅)か否か?については、諸説あるでしょうが(笑)、しかし、この人は『私という人間は、“グレース”であるべき存在なのよ』という確信を持っていると思います。  『才能』を持っているミュージシャンは多いですが、『確信』までをも持てている人は、そうは居ません。  そういう意味で、やはりアキコ・グレースさんは、『選ばれし・・・』なんでしょうね。

ライブは、デビューCDのオープニングを飾ったというバラッドで『ネバー・レット・ミー・ゴー』、そして、アキコ・グレース本人編曲による『マイ・フェイバリット・シングス』でファーストセット終了。  セカンド・セットは、オリジナルの『デランシー・ストリート・ブルース』、“恋をすると弾きたくなる”との意味深発言(?)と共に『ホエン・アイ・フォール・イン・ラブ』、そして、『春の如き』、最後もオリジナルで『ザ・ラスト・スマイル・オブ・ユー』と続きます。

アキコ・グレースさんのプレイを聴いて、この人は、ジャズ云々の前に、『音楽』というものを構成している要素には何があって、それがお互いにどのように組み合わさり、影響し合っているのか?を熟知しているように感じました。 彼女のピアノからは、『原子の周囲を周回する分子』の図が浮かんできます。 彼女のプレイは、『感情の発露』としての『音楽』ではなく、『仕組みの並べ替え』を瞬時に行っていく、『科学的作業』のようです。  ですから、この人の音楽は、グングン広がって行く、というタイプではなく、特定の『枠組み』の中で、様々な『化学変化』を起こしながら、深く突き進んで行くもののように感じます。  

惜しむらくは、当夜の共演者が、その彼女の音楽性にはマッチしていなかった・・・いや、逆に『マッチしよう』と努力してしまったので、全体に『狭苦しい音楽』を作り出してしまったことでしょう。 小島さんは、凄く上手いドラマーで、その上、凄く真面目なので、アキコ嬢が繰り出す音楽に対して、【ジャスト】のドラミングをしてしまう。  俵山さんも、アキコ嬢に合わせよう、合わせよう・・・という、無難なプレイに終始していたようで、どうも、こいつは面白くありません。  恐らく、アキコ・グレースさんのようなタイプには、【ジャスト】を意識しながら、ワザと2つ、3つズレた所を叩くドラマーや、アキコさんが基盤にしている『枠組み』の中に突入しつつも、ワザと彼女とは反対方向に位置して揺さぶりをかけてくるようなべーシストが必要でしょう。  

マスコミからも注目され、付け人(?)は2名体制、男性ファンはチヤホヤ・・・と幸せの絶頂にも見えるアキコさんですが、でも、まだまだ、(日本では)確立した自己のバンド(トリオ)を率いて活動出来ているわけでもなく、(実力者とは言え)日替わりミュージシャンとの共演ばかりの現状ですから、これからが本当の勝負となるのではないでしょうか?

それと、高い音楽性、そして可能性を感じさせてくれたアキコ・グレースさんですが、どうも、僕は彼女の音楽(演奏)から『グッと来るもの』が感じられませんでした。  簡単に言えば、ソコソコ気持ちは良いんだけど、どうしても最後までイケナイ、オルガスムスまで至らない・・・という感じですね。  何故だろう、何故、彼女の演奏には『グッ』と来ないんだろう?と、途中からズッと考えて聴いていたのですが、恐らく、そこに『歌』がないからでしょう。  『感情の発露』としての『音楽』、そして『歌』が、そこに無ければ、少なくても僕は、『また聴いてみよう』とは思えません。